9月にDuke University Pressより発売されたTim Lawrence著の『Life And Death On The New York Dance Floor, 1980-83』という本の核心には、3つの主張がある。同書の前書きにその3つの論点がまとめられている。「まず1つ目は、1980年代初頭のニューヨークでは、コミュニティー主導のカルチュアル・ルネッサンス（文化的復興）が起こったという点。これはニューヨークの歴史上、ひょっとすると他のどの街の歴史においても、類を見ないほどの影響力を見せた。2つ目は、このルネッサンスはニューヨークが産業主義から脱工業化社会にシフトした時期に表面化したさまざまな機会が基になっていること、そしてその後、ニューヨークが金融資本、都市の高級化、不動産のインフレ、そして社会的統制を軸に組織化し、ネオリベラル（新自由主義的）な街へと変貌していくにつれて、このルネッサンスが崩壊していったということ。3つ目は、パーティー・カルチャーは、愚かな快楽主義や反社会的活動の根源であると、事あるごとに批判される対象であったにも関わらず、社会的、文化的、さらには経済的なポテンシャルをも有していたという事実が、この本で取り上げている時期に顕著になったという点」

同書より、David Mancusoが主催するThe Loftの唯一無二なスピリットと、後世に与えた影響をLawrenceが分析している章を抜粋し、以下に掲載する。

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David Mancusoは、シカゴのロックDJ、Steve Dahlが先導したアンチ・ディスコ運動の一環で、野球場で4万枚のディスコ・レコードが爆破された件について新聞で読んだが、それほどのことに感じなかった。「反ディスコ運動はニューヨーク外で起きていたことだった」と、The Loftの主催者である彼は言った。「ニューヨークは過去も今も、アメリカの他の都市とは違う。シカゴとも。向こうではディスコをやたらネガティブに捉えていたが、ニューヨークではさまざまな文化や音楽のなかのひとつとして見られていた」。Mancusoは、レコード会社から配布されたプロモ盤をDJに提供する組織、New York Record Poolを設立したひとりとして、ディスコの浸透において重要な役割を果たした人物だが、Studio 54の客の選び方が階級制度的になっていき、「当時出ていた多種多様な曲」を無視し、ディスコ・ヒットのみの選曲をDJに強要するようになってくると、そういった動きとは距離を置くようになった。Mancusoがかける音楽はせいぜい3割程度がディスコとカテゴライズすることができる曲であったため、The LoftがStudio 54のような状態になってしまうことはなかったが、Studio 54の人気が増していくに連れ、ディスコ・ミュージックが内包していた輝かしいポテンシャルはどんどんと目立たなくなっていった。「他の音楽と一緒にディスコを聴くことができたら、そんなに反発する人も現れなかったかもしれないが、何しろ人はディスコを嫌というほど聴かされていた」と、Mancusoは言う。「いったんお決まりのパターンができ上がってしまったら、それを変えようとする動きが出て来るのは当たり前。人は、お決まりなんて求めてなかった。ただ踊りたかったんだ」

The Loftの始まりは、1970年2月14日土曜日に遡る。Mancusoは『Love Saves the Day』というバレンタイン・デーのパーティーを催し、ありとあらゆる音楽を含んだ幅広い選曲で客を楽しませた。ダウンタウンの製造会社の相次ぐ移転があったおかげで、Mancusoは647 Broadwayの倉庫スペースを借りることができ、広い空間を使ったパーティーを開催するようになった。そしてステレオ技術の黄金時代の到来により、音楽の質を極限までこだわることができ、それがパーティー体験の効果を更に拡大した。1920年代にハーレムで流行ったレント・パーティー（註：高騰するアパートの家賃を払うため、自宅にバンドなどを呼び、来客から寄付金を集めたハウス・パーティー）の伝統を参考にした、客の寄付によって成り立つコミュニティー意識の高い、無許可営業のプライベート・パーティーであった。どんな人でも歓迎されるこのパーティーには公民権運動、ゲイ解放運動、フェミニスト運動、そして反戦運動の人々も流れ込み、フロアには実にカラフルな客層が集まった。そしてMancusoが子供の頃にいた養護施設で、子供たちのために定期的にパーティーを催していたSister Aliciaというシスターの影響で、彼は社会に除け者にされた人たちを家族のように扱うことに揺るぎない信念を抱き、パーティー会場を子供のバースデー・パーティーを彷彿させるようなデコレーションで彩った。Mancusoはきっと、最寄りのパーティーグッズ店のお得意さんだったに違いない。

自身のことをDJではなく、たまたま選曲も担当するパーティー主催者として見ていたMancusoは、楽曲のメッセージ性やグルーヴ感を重要視した曲の選び方にこだわり、パーティーの始まりから終わりまででひとつの鮮烈なストーリーを描く、というプレイスタイルの先駆者となった。彼はドラマチックな展開がある冒険的な楽曲を好み、Warの"City, Country, City"、Chicagoの"I'm a Man"、Eddie Kendricksの"Girl You Need a Change of Mind"、Manu Dibangoの"Soul Makossa"など、ラテン、アフリカン、ロック、ゴスペル、ブレイクビート、そしてカントリーまでをも混ぜた選曲でニューヨークのダンスフロアで聴ける音楽の幅を広げた。Tenth Floor、the Gallery、Flamingo、12 West、the Soho Place、Reade Street、そしてParadise Garageは全てThe Loftをモデルとしており、70年代のダンス・パーティーのなかでもThe Loftが最大の影響力を誇った。ところが警察とのトラブルからBroadwayのThe Loftを畳むことになり、彼はPrince Streetへ移転するも、そこでも法的トラブルに見舞われるが、パーティーは開催され続けた。「LSDをとる人たちが多くて、トリップが12時間とか続くもんだから、アシッドをやってなくても皆のヴァイブスはそんな感じだったね」と、主催者Mancusoが語る。「午前3時半くらいにはフロアはパンパンで、パーティーは次の日の午後１時まで、長いときはそれ以上続いた。そういったサイクルの繰り返しだった」

1980年にロングアイランドのパーティーでThe Loftについて教えてもらったLouis "Loose" Kee Jr.は、以前友人の誘いでStudio 54に行ったことがあり、マンハッタンのクラブは経験済みであった。そのため、Studio 54の豪華な入り口、華やかな内装、そして客層のゴージャスさはすでに見慣れていたが、Mercer Streetの入り口から地下に降りてThe Loftに一歩足を踏み入れたときの光景は、彼を大いに驚かせた。彼の目にまず飛び込んできたのは3人の男性。そのうちのひとりは足を広げて立っており、残りのふたりは部屋の反対側から順番に男に向かって走り、直前で膝をついて身体を反らしながら足の下をスライドしてくぐり抜ける、といったことをしていた。「“なんだ、ここは？”って思ったよ」と、彼は思い出す。「自分の居場所を見つけたと思った。そのとき俺はもう4年くらいロングアイランドのクラブでフリースタイルとか、ハッスルとかを踊っていたんだけど、このとき初めて俺の上を行っている人たちに出会ったんだ。ロングアイランドでは俺の右に出る人はいなかったんだよ」

The Loftで彼は初めて「同じ場所で黒人、白人、年寄り、若者、ストレート、そしてゲイの人たち」と一緒に踊ったと言う。そして毎週、ロングアイランドから街へとクラブ通いする「秘密の集団」のひとりとなった彼は、夜中の12時に仕事が終わるとバッグを取ってPrince Streetに直行した。Studio 54には高級ブランドを纏い、自己アピールに必死なナルシストが多く集まっていたが、Mancusoが催すパーティーは「正反対」であっと彼は言う。「Loftでは、着てる服なんて誰も気にしなかった。それよりも皆でコミュニティーを作りあげることが大事だった」。Tシャツにミリタリー・パンツ、足元はCapezioのダンス・シューズか5ドルのチャニーズ・スリッパ、といった機能的な格好をする客が多かった。シャツの袖を切り刻んで、そこにビーズの飾りをぶら下げるというファッションが流行っていた。そして短くなったマリファナを挟むためのクリップを服のどこかに飾りのように付けておく人も珍しくなかった。「皆、発想豊かで、かつ実用的な格好をしていた」と彼は言う。

他のディスコと比べると空いていたThe Loftの地下のダンスフロアは、精一杯踊りたい人にとって最適な場所であった。腕を広げて跳び上がり、手から着地し、そのまま頭を腕の間に通す、などといったアクロバティックな踊りをする人も多かった。常連客のひとり、Zulekaは逆立ちをした状態で、足の指が頭に触れるまで足を下ろす、といったことをよくしていたという。「タップダンスをしている人もいれば、バレエとか体操、エアロビクスなんかをやってる人もいた。格闘技っぽい動きをする人もいたね」と、Looseが言う。「毎回バンダナを巻いてくる男なんて、音楽に合わせて縄跳びしたり、腕立て伏せをしていたよ。いつもマジックをするMagicってやつもいたよ。トランプを使ったり、コインを耳から出現させたり。あと自分のドレスを旗みたいになびかせて踊る女がいた」。他人がやる行動に合わせ、さらに新しい動きが増えていく。「楽しければ、どんな動きをしても良かったんだ。自由な心を持つ人は大歓迎されたよ」

Louis “Loose” Kee Jr. and Roxana Tash preparing to go to a party at the Prince Street Loft in 1982.

Louis “Loose” Kee Jr. and Roxana Tash preparing to go to a party at the Prince Street Loft in 1982.

Prince StreetのLoftへ出かける前のLouis “Loose” Kee Jr.とRoxana Tash。（1982）

Archie Burnettも同じ頃にThe Loftに通いだした人物だ。家族がセブンスデー・アドベンチスト教会の信者であったため、タトゥーは禁止され、ダンスは神のためにのみするようにと、子供の頃から教わっていた。「金曜の夜から土曜の夜まで、家族は何もしないんだ」と彼は言う。「当時まだ実家暮らしだったから、内緒で遊びに行っていた」。学校でグラフィック・デザインを勉強し、Gramercy TheaterでアルバイトをしていたBurnettは、Studio 54の競合店であったNew York, New Yorkで、テレビで見たダンスを真似して踊っていたあるとき、友人にLoftのことを教えてもらいPrince Streetに連れて行かれた。「最初は、すごくうるさくてビックリしたんだ」と、彼は思い出す。「Davidがかける曲が人気だと客が大声で叫ぶもんだから、何が何だか最初はわからなかった」。ミッドタウンのディスコと比べるとジロジロ見る人も少なく、踊る客たちのマナーの良さや、カジュアルな服装に好印象を抱いた。「なんもわかってなくて、俺はLAっぽい格好をしていた」と彼は言う。「踊りも、突っ立ったまま腕だけ動かしていて、ぎこちなかった」。しかし周りの人々の真似をしているうち、彼は次第に音楽と一体になっていった。「シンコペーションのある曲だったらドラムに合わせて踊ってた。それ以外の曲なら、ベースとか、直感的にノリたいと思ったものに合わせて踊ってた。あとヴォーカルが曲中で歌ってることをジェスチャーしたりしていたね」

Alvin Ailey American Dance Theaterを設立した黒人ダンサー、Alvin Aileyといったプロのダンサーも来ていたThe Loftでは、お互いに新しいダンスを教え合う空間ができ上がっていた。そしてアットホームで包容力のあるこの場の雰囲気は、人を「まるで9歳に戻った」かのような無邪気な気持ちにさせたとBurnettは言う（家庭での居心地が悪くなり、母に「あなたがやってることは悪魔の仕業！神のもとに戻ってきなさい！」と言われても、彼はパーティーに行くのをやめなかったそうだ）。ダンスフロアに引き込まれ、無心で踊る人たちの間には目で見えない糸が複雑に絡み合っていた。「2, 3人と同時に踊ったりしたよ」と、Looseは言う。「一緒に踊る人によって違ったリズム、動き、そして感情が生まれるから、相手がやっていることをちょっとずつ自分のダンスに取り入れていった」。ピーク時にメインフロアにいるときは踊りを制御する必要があったが、朝の8時を廻る頃にはより広々と空間を使うことができ、MancusoはWest Side Storyの"America"などをかけた。その午後、パーティーも終わりを迎えようとしているとき、Mancusoは"The Nutcracker" （チャイコフスキーの"くるみ割り人形"）なんかをかけるかもしれない。彼の飼い猫Sir Wolfieが、フロアを駆け回る。「パーティーに来ていた人たちの多くは、人生に疲れていたんだ」と、Burnettは言う。「The Loftは安息の地だったんだ」

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