DiscogsでOren Ambarchiの過去のディスコグラフィをチェックすれば、このオーストリア出身のエクスペリメンタル・ギタリストが2016年に放ったスリリング極まりないエレクトロニック・アルバム『Hubris』が持つ特異性が浮かび上がってくるはずだ。10代でドラマーとして音楽のキャリアをスタートしたAmbarchiは1990年代初頭の日本のノイズシーンに着目し、PhlegmやMenstruation Sistersといったバンドと共に初期衝動に満ちた作品を作り上げる。やがてニューヨークに留学した彼はJohn Zorn（編注：サキソフォニストにして作曲家もこなすNYアヴァンギャルド・シーンのレジェンド）らと共に即興セッションに熱中。1990年代末になると、AmbarchiはChristian Fenneszなどの同時代の作家たちと呼応し瞑想的なエレクトリックギター作品を発表するようになる。その楽曲群はTouch、Mego、PAN、Krankyなど当時のエクスペリメンタル・レーベル群の耳に留まり、やがて2000年代中盤にはドゥーム・ドローン・メタルバンドSunn O)))の作品群においても中枢的な役割を担うことになる。

Ambarchiはかくもオープンマインドな活動を展開してきたが、それを踏まえても近年の彼が見せるエレクトロニック・ミュージックへの接近ぶりには驚かされる。『Hubris』において、彼は自らのビジョンを具現化するためにMark Fell、Keith Fullerton Whitman、Jim O'RourkeそしてRicardo Villalobosといったゲスト陣を起用している。『Hubris』はそれぞれ21分と16分の長尺トラックが2曲、そして1分55秒の控えめなインタールード1曲によって構成されるアルバムだが、この作品にはクラウトロックやミニマルテクノ、ノイズ、フリージャズなどの隙間を突く理屈抜きのスリルが横溢しており、故Princeへのトリビュートと思しき部分さえある。VilallobosやFellが手掛けた生物的なエレクトロニック・リズムの合間を縫うようにWill GuthrieやJoe Taliaの雷鳴のようなドラム、そしてPANからの作品発表を控えるKonrad Sprengerの電動ギター、No WaveレジェンドであるArto Lindsayの鋭いギターなどが紡がれる。Ambarchiはこの作品においてギターのために約80トラック分を用意したという。

他のアーティストがこのような多彩なゲスト陣と共にアルバムを製作したとしたら、それは単なるオールスターによるジャムセッションを無秩序にまとめただけのものになっていたはずだ。だが、Ambarchiの手腕はこの作品をまるで1970年代のCanのアルバムを彷彿とさせるような推進力とアドレナリン満載の内容にまとめあげており、それは高圧電線のように火花を上げている。スイスで行われたAlvin Lucier生誕85周年記念ライブパフォーマンスにおいて作曲家として参加し、さらにはベニスでのMark FellとThomas Brinkmannとのトリオ・ライブを控え、Ambarchiはミラノで数日だけの休暇を過ごしていた。筆者はミラノで彼にインタビューを行い、その会話は彼が好きなTheo Parrishのディスコ・エディットに関するものから、BerghainでのライブPA、そしてWang Chungが映画『To Live And Die In L.A.』のために制作したサウンドトラックがいかに『Hubris』のサウンド面に影響を与えたかという話題まで多岐に渡った。

前回あなたとお話しした際、そのテーマは灰野敬二とあなたの共演、そしてSunn O)))のStephen O'Malleyとあなたが制作した『Shade Themes From Kairos』についての話題がメインでした。前回のインタビューから数ヶ月経って、あなたは私にメールを下さいましたね。私がレビューしたTheo Parrishの『Ugly Edits』という作品について、このヴァイナルを売ってくれないか、とね。結局、『Ugly Edits』はその後手に入りましたか？

ああ、あのシリーズの12インチはツアー先でほぼ全て手に入れたよ。ほとんどは日本で見つけたって感じかな。僕は、あのシリーズにおけるTheoのエディットに対するアプローチに夢中になってね。あのラフな荒々しさが好きなんだ。ファンキーであると同時に発明的というか、彼が直感で手を動かしている様子が伝わるんだ。非常に自然で、かつ生々しさが感じられる。あのシリーズのエディットは中毒性が高くて、僕はかなりクレイジーに聴き込んだよ。もちろん、彼の普段のプロダクションも好きだよ。Theoはアメイジングな存在だが、クラシックなトラックを直感で料理し、それらを再提示 / 再発明する手法にはとりわけ特別な才能を感じるね。僕は、彼の作品をある意味伝統的なエクスペリメンタル作品の系譜の一つとして楽しんでいるのかもしれない。

Theoの音楽にはどのようにして巡り合ったのですか？

もともと僕はテクノやダンスミュージックをずっと聴き続けているんだよ。ここ4、5年くらいは、ディスコやリエディットものを好んで聴いていて、今じゃすっかり夢中になっている。

ディスコ・エディットは、本来ならチージーでプレイされ尽くされたトラックを別角度から再定義する興味深い手法ですよね。聴いたことがあるはずのトラックもどこか違って聴こえたりして、エディットには記憶ゲームのような面白さがあります。

その通りだね。 “記憶ゲーム” というタームを出してくれたけれど、ディスコ・エディットが『Hubris』に及ぼした影響はまさにそれなんだ。1970年代のポップソングでもディスコトラックでも何でも良いのだが… 僕がある楽曲を聴いている際その中のたった一つのエレメントだけに注意して耳を傾けてみるんだ。楽曲全体から見ればほんの小さな要素に過ぎないのかもしれないが、ひたすらそれだけを集中して聴いていくうちに非常に酩酊的なフィーリングを生み出していく。そこで僕はこう思うんだ。「この小さなエレメントだけを取り出して、さらに30分間展開させることはできないだろうか？」ってね。『Hubris』ではこのアイディアを実践してみたんだ。William Friedkinが1980年代に監督した映画で『To Live And Die In L.A.』（邦題『L.A.大捜査線 / 狼たちの街』）という作品があって、そのサウンドトラックはWang Chung（編注：イギリス出身のシンセポップ・デュオ）が担当していた。僕はこのサウンドトラックに含まれていたギターだけを深くフォーカスして聴き込んでみた。その楽曲が本来意図した焦点ではなかったとしても、僕にはとても際立って聴こえてくる瞬間があって、「このテクスチャーを拡大し、より長い時間軸で展開することはできないだろうか」と考えてみたのさ。

他の人からは「あのサウンドトラックと『Hubris』の関連性は到底見つけられない」って言われたけど、この聴き方は僕だけの特異なアプローチなんだろうね。ある作品や音を聴いて、それが何週間も頭の中にこびりついて離れなくなってしまうような感覚が僕にはあって、その記憶が後々になって作品に表出するんだろう。分かりやすいサンプリングや剽窃ではなく、よりインスピレーション的な意味合いが強いね。

先ほど「ディスコに夢中になっている」とおっしゃいましたが、『Hubris』においてWang Chungのサントラと同様の影響を及ぼしたディスコ・トラックはあるのでしょうか？

Tullio De Piscopoという人の有名な曲を知ってる？

"Stop Bajon"のことでしょうか？

そう。あの曲にはギターをメインに押し出したインスト・ヴァージョンがあって、左右に激しくギターがパンするんだけど… あれは大きなインスピレーションになった。何度も繰り返し聴いたよ。特にあのトラックの上でプレイされているギターが好きなんだ。実はあのトラックにはDon Cherry（編注：アメリカ人のフリージャズ/アヴァン・ジャズ・トランペッター）が参加していて、その事実ももちろん大好きなんだけど、クロスリズムになっているあのギターにはどこかしら特別なフィーリングがあってね。その音色も含めて僕にとっては本当に豊かなインスピレーション源になっているんだ。もちろんこの曲も『Hubris』に大きな影響を与えたと思う。

Oren Ambarchi

『Quixotism』（2014年）と今作『Hubris』では、エレクトロニックなテクスチャーへとシフトしていますね。これはあなた自身がよりダンスミュージック / エレクトロニック・ミュージックに接近しているということを示しているのでしょうか？

僕はドラマーとして育ったので、リズムに対する興味は常に存在する。2000年代に手掛けたTouchでのアルバム群にしても、かなりの部分でPan SonicやMike Inkからの影響を受けていたけど、同時にかなりアブストラクトな作品群からも影響を受けていた。リズミックな要素はかなり希薄であるにせよ、『Grapes From The Estate』（2004年）や『Suspension』（2001年）といった作品ではリズム要素が全ての楽曲において確実に介在している。表面上では必ずしも分からないかもしれないが、そこには確かにリズムがあるのさ。それ以降はライブでドラムを演奏するようになり、忘れかけていたリズム感覚を取り戻してきたと思う。リズムは僕の中に当たり前に存在するものなんだ。僕は本来リズムが表出していないアブストラクトなものの中にリズムを見出す作業が好きで、その反復的なリズミカルさによって引き込まれる感覚が好きなんだ。同時にリズムとは切り離されたアブストラクトな構築作業を並置することが僕にとっては魅力的に思える。まあ、僕は所詮ドラマーだし、最初に慣れ親しんだ楽器から離れることはできないから、明らかにリズムは自分の一部だと言っていいね。ノイズだけをやってきた人がいきなりテクノを作るようなケースは、僕にとっては全く当てはまらないと思う。

Thomas Brinkmannとコラボレーションするようになったきっかけは？

Thomasとは7年前にオランダで初めて同じイベントで共演した際に意気投合して、それから互いのライブを熱心にチェックする間柄になった。もっとも、僕は何年も昔から彼のファンだったけどね。僕に言わせれば、彼が1998年に発表したRichie Hawtinの『Concept』シリーズ再構築版である『Concept 1 - 96:VR』は当時のミニマルの最高傑作だと思うね。僕はあの作品が大好きだし、彼が初期にリリースした12インチもたくさん持っている。彼と初めて同じイベントに出演した際は興奮したし、僕らは最初からすごくウマが合った。ありがたいことにその後、日本で一緒にライブをすることもできた。彼は実験芸術のバックグラウンドを非常に強く持っているので、僕たち2人は様々な部分で共通点を持っている。彼は独自の作家性を確立しているし、本当に素晴らしいアーティストだ。常に自分自身のアートを追求していて、別の言い方をすれば他人が期待するようなことは一切やらない。ある意味では確信犯的トラブルメーカーともいえる。

『Hubris』ではRicardo Villalobosの参加も大きな興味を掻き立てる要因でした。あなたとVillalobosの共通点といえば、共にECMの熱心なファンということでしょうか？

ああ、ECMの作品は大好きだ。臆面もなく言ってしまえば、僕は10代の頃からECMの作品を聴いて育ってきた。だから、Ricardo（とMax Loderbauer）が手掛けた『Re: ECM』を初めて聴いた時は大いに興奮したね。

Villalobosが以前にリリースした作品群は聴いていましたか？

もちろん。僕はRicardoの大ファンさ。2012年にリリースされた『Dependent And Happy』も驚異的だった。彼の作品は常に変化し続けているし、そこには美しいディテールへの着目が窺える。そして、一つの瞬間に様々な事象が起こっている。Theo Parrishの作品もそうだが、同時に様々なムーブメントが起こることで作品には活き活きとした躍動感が生まれ、進化と変化を続けるんだ。まるで複数の生楽器が演奏されているみたいに、真の有機的な要素が生まれる。Ricardoの作品によって、僕自身もプロデューサーとして刺激を受けているよ。Ricardoをゲストに招き、一緒に共同作業することはまさに夢物語が実現したかのようだよ。

『Quixotism』はたくさんの作業が詰め込まれた、異なるムーブメントとたくさんのレイヤーが重ねられた作品だった。僕は2012年にMegoから発表した『Sagittarian Domain』のような作品をもう一度やろうとしていた。『Sagittarian Domain』も前述のアイディアの元に作られた作品だったが、ちょっとしつこ過ぎた部分があった。『Quixotism』はそれをもっとシンプルにやってみようという意図があった。

『Quixotism』はアルバム全体で1つの楽曲を成していますが、ゆったりと時間をかけて展開しつつも様々な場所へ広がっていきます。この作品の制作にはどれほどの時間をかけたのでしょう？

そうだね、『Quixotism』に関しては僕のライフスタイルが強く反映されていたと思う。僕は常に旅を続けているし、1ヶ所にずっと長く留まるということがない。こんな生活を一体いつまで続けることができるのかと考えると気が遠くなるけれど、実際過去10年以上も僕はこうした旅暮らしを続けている。ただ、この生活の数少ない利点を1つだけ挙げるとしたら、移動中に制作をすることができ、各地で様々な人々に出会うことができるということ。『Hubris』の制作にあたっては、まずMark Fellとの共同作業から着手した。Markの自宅に1週間ほどステイしながら2人で作業を始めた。それからベルリンや東京にも行ったけど、その移動中は特に作業はしなかった。僕が世界各地をツアーで巡る際、移動中にやるのはそれまでの作業内容の確認が中心で、各素材をできるだけ調和させ、全体として意味のあるものにしようとしている。その過程の中で、ボツになる素材もかなり出てくるけどね。他者とコラボレートすることで、他の人々がどんなことをやっていて、それに僕がどう反応しようかと考えることが楽しくなるね。4、5年前に作った「Knots」という作品（編注：2012年発表のアルバム『Audience of One』収録）では、ドラマーであるJoe Taliaに「ECMでのJack DeJohnette（編注：Keith Jarrettなどの作品への参加で知られるジャズ・ドラマー）みたいに叩いてくれないか」とリクエストしたんだ。ただし、DeJohnetteのプレイよりもスピード感のある感じでね。『Quixotism』ではThomas Brinkmannに対し「指定したBPMで、50分間好き勝手にやってくれ」と頼んだ。僕はその素材を元にギターを加え、他のプレイヤーにも演奏してもらう過程でようやく全体像が見えてきた。そんなわけで、僕は今のこうした共同作業そのものを楽しんでいる。というのも、昔Touchから作品をリリースしていた頃は何をやるにも1人だったからね。1人で制作に取り掛かり、1人でエレメントを加え、1人で完成させていた。全てがたった1人だけの作業だった。今は、他の人々と一緒に作業する過程をよりエキサイティングに感じている。

あなたをコラボレーション主体の制作に向かわせた他の理由にはどんなものが考えられますか？

僕が新たにプロジェクトを立ち上げる際、それを前に推し進める促進剤のようなものを必要としているんだ。単純にいろんな音楽を聴いて、そこで頭の中に浮かんだアイディアに1人で感動してみたり、それを実際に実行してみたりね。まあ、『Hubris』に関してはあらかじめ求めるビジョンが見えていたので、Mark Fellと一緒に膝を突き合わせて「君にはこれができるよね。僕はこっちの別の作業に取り掛かっておくから、後で互いの素材をまとめてさらにギターを重ねてみよう」という感じでシンプルに話を進めることができたのさ。

もうひとつ、『Hubris』に関して個人的に興味深いと感じた点があります。それは、Mark Fell、BrinkmannそしてVillalobosというそれぞれ非常に個性の確立されたサウンドを持つ人々が参加していながら、いざ実際に聴いてみるとどれが各自のサウンドか聴き分けることが難しいということです。

これらの人々と共に共同作業ができたことは幸運だよ。付き合いやすい良い友人がたまたま素晴らしいアーティストでもあったという感じかな。しかも彼らは僕のプロジェクトを尊重して非常にユニークなものを提示してくれたというわけさ。彼らも乗り気になってくれたということだね。僕も、彼らの作品でもし僕が必要なら同じ形で参加したいと思う。出来上がったサウンドがそうした有機的なものだったということは、単純に自然な結果だと思うよ。

Villalobosがこれほどオープンな姿勢であなたのプロジェクトに参加したことは意外でしたか？

そうだね。彼は忙しい男だし、彼は自分のフィールドで大きな存在感を確立しているけど、同時に外部にも視野を開いている。そういう意味ではArto Lindsayの参加も楽しい経緯だった。僕は彼の作品がずっと好きだったけど、過小評価されている気がしてならなかった。当初はArtoっぽいカリカリとしたギターサウンドを自分で作ろうとしていたんだけど、途中で「俺は何をやろうとしているんだ？　これではただArtoを真似しているだけだ」って思ってね。それで、Artoにコンタクトを取って「あなたを真似しようと思ってるんですけど、どうにもうまくいかないんです」って正直に伝えた。彼は僕が録音した素材を聴いて「じゃあ私がやろうか？」って言ってくれてね。こうして彼の参加が実現したというわけ。彼は本当にクールな人だよ。

あなたは1990年代にニューヨークでJohn Zorn周辺のアヴァンギャルド人脈と共に活動していましたが、当時からArto Lindseyとは面識があったのですか？

Arto自身はおそらく憶えていないだろうけど、僕は1993年に彼と同じステージで共演したことがあった。John ZornがKnitting Factoryで主催していた即興ライブでね。それに、僕がまだ若い駆け出しの頃にも彼と東京で会ったことがある。僕が当時やっていたPhlegmというバンドのギグに彼が足を運んでくれたんだ。

『Hubris』ではリアルタイムで演奏したジャムセッションも収録されているのですか？

いくつかの素材は、東京でJim O'Rourkeと共にジャムした時のものが使われているね。

ここでようやくJim O'Rourkeの名前が出ましたが、彼も『Hubris』において大きな貢献を果たしたゲストでもありますね。

Jimの存在はこのアルバムにさらに華を与えてくれたね。彼と作業するのは大好きだし、彼が手を加えればどんなものでもさらに良くなる。「Hubris 1」での超チージーなギターシンセ・ソロを弾いているのが彼さ。僕たち2人の共通点といえば、お互いにECMの作品が大好きだということかな。特にPat MethenyやJohn Abercrombieが参加した作品がね。彼は自分のギターシンセを引っ張り出してきて、ふざけたフレーズを弾き始めたんだ。「おいおい、まさかこのフレーズを作品に採用するつもりじゃないだろうな？」ってお互いに冗談を飛ばしあっていたんだけど、まさか本当にそうなるとはね。

O'Rourke、Fell、Lindsay、Villalobosというメンバーが一堂に会するスーパーグループをあなた自身は想像していましたか？

クレイジーだよね。僕自身も信じられない。すごく奇妙な気分でもある。

このアルバム制作での体験は、あなた自身の音楽への向き合い方を変えたのでしょうか？

僕は自分のアルバム制作となると非常に頑固者でね。使用する素材について、細かい部分にまでこだわるんだ。まあ、究極的には自分で全てを形作るのだが。僕は、自分の頭の中で鳴っている音像をなるべくそのまま形にしたいんだ。

これほどのメンバーが参加した中で、あなた自身の演奏の割合は？

「Part 1」では、おそらく僕の演奏したギターが約80トラック分使われている。非常に分かりづらいが、全てパーム・ミュートで弾いたギターが全てクロスリズムで鳴らされている。「Part 1」が終盤に向かうに従って、僕のヴォーカルを使ったレイヤーが幾層にも重ねられていく。ある意味、10cc「I’m Not in Love」への僕なりのオマージュなんだけどね。あまりにも複雑で浮世離れしたサウンドにはしたくなかったとはいえ、それでもたくさんのディテールが詰め込まれていると思う。トゥーマッチになってしまうギリギリのところを狙ってミックスする作業はクレイジーだったよ。Black Truffleから12インチでリリースされたVillalobosリミックスに関して言えば、彼は非常に多くの素材を活かした長尺のリミックスを仕上げてくれた。これだけでさらにもう1枚のアルバムか、別の2ヴァージョンのリミックスがリリースできる量のマテリアルを送ってきてくれたよ。僕は、あの12インチに関しては彼が気に入っている部分を尊重してピックアップするだけで済んだ。

Villalobosが手掛けたリミックスを聴いて、自分自身の作品の新たな側面を発見して驚くことはありましたか？

僕は彼に手渡したマテリアルの内容はもちろん全て把握していたし、それをRicardoがどんな風に解釈して仕上げてくれるか楽しみだった。結果として、プロデューサーとしての彼に対する尊敬の念をより強くしたよ。彼が一体どんな作業を経てあのリミックスを仕上げたのか、僕には見当もつかない。僕はエレクトロニック・ミュージックにどっぷり浸かっているわけでもないし、テクノロジーへの興味も希薄だ。僕はミステリアスなものはミステリアスなものとしてそのままにしておきたい。だから、Ricardoがどんな作業を施したかについてもあえて詳しく知ろうとは思わない。間違い無く言えるのは、Ricardoのリミックスは本当に生々しいサウンドだということ。あれはラップトップでただループをカット＆ペーストしているだけのプロデューサーには作れないサウンドだね。むしろそうしたサウンドとは対極にあるものだ。だからこそ、Ricardoはベスト中のベストだと言える存在なんだ。

最後になりますが、『Hubris』（編注：ギリシャ語で「自信、尊大さ」を意味する）というアルバムタイトルの由来は？

さっきも話題に出た映画監督William Friedkinの自叙伝を読んでいたんだけど、あれは素晴らしい書籍でね。その中で、彼の絶頂期であった1977年に監督した『Sorcerer』（邦題：『恐怖の報酬』）という作品について語っている部分があるんだ。その映画の中について書かれた章で、彼はこの作品を「Hubris」と呼んでいるんだ。なぜなら、彼は何一つ間違ったことをしていなかったにも関わらず、この映画は彼の映画監督としての評判を大きく落とす結果になってしまったからね（編注：Friedkinが豪華キャストを揃えて大きな自信を持って制作した『Sorcerer』は商業的失敗に終わった）。これを読んだ僕は、妙な共感を覚えたんだ。というのも、僕も『Hubris』の制作では豪華なゲストを集めていたからね。ともあれ、このタイトルにはユーモラスな側面もあると思う。

『Hubris』は『Quixotism』から続く近年のあなたのエレクトロニック・ミュージックへの接近、他者との共同作業への考察が結実したものだと感じていますか？　次に制作するアルバムでは、また完全に異なるものにチャレンジするのでしょうか？

なんとも言えないね。とりあえず今は疲れているからさ！